送迎中の事故、なぜ車いす利用者だけ?安全性と利便性は両立できるか
2025 年7 月29 日消費者安全調査委員会(消費者事故調)より、高齢者や障がい者などの車いす利用者が送迎車への乗車中に衝突事故などで死亡する事例が後を絶たない為2 年間の調査を行う旨が発表されたのを受け、当協会に朝日新聞社から取材依頼があり、この度掲載されましたのでご報告いたします。
2026/03/14 8:55 送迎中の事故、なぜ車いす利用者だけ?安全性と利便性は両立できるか
朝日新聞
送迎中の事故、なぜ車いす利用者だけ?安全性と利便性は両立できるか
2026年3月13日12時00分
酒井祥宏井上道夫原田悠自

車で送迎されている時に交通事故に遭い、車いす利用者だけが重傷を負ったり、亡なったりするケースが出ている。車いすやその利用者が適切に固定されていない事例があるといい、車いすの関連団体は、簡易固定装置や車載用車いすの規格化を
検討している。
茨城県阿見町の町道で2025年6月、老人ホーム送迎用のワンボックスカーが道路右側のコンクリート壁に衝突した。県警牛久署によると、最後部に車いすで乗っていた70代男性が腕を開放骨折し、出血性ショックで死亡した。70代の運転手は左足小指を骨折し、助手席後ろの座席の看護師は軽傷。70代男性はシートベストをしていたが、車いす利用者だけが亡くなった事故だった。
統計がなく、全体像は不明
こうした事故について、消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)が昨夏から実態調査を始めたが、同様の事故は20年以上前から確認されているものの、統計がなく全体像は不明という。
滋賀医科大学の一杉正仁教授(社会医学)が滋賀県内の死亡事故を分析したところ、車いす利用者が同様に死亡した例は2017~19年が151人中2人(1.3%)、20~22年は124人中4人(3.2%)だった。
車いすや車いす利用者が適切に固定されておらず、事故の衝撃で車内で体を強打したり、シートベルトで腹部を圧迫されたりして亡くなっていたという。一杉教授は「適切に固定やシートベルト着用をしていなければ、時速40~50キロでの事故でも車いす利用者が亡くなる恐れがある」と話す。
一般社団法人「日本福祉車輌(しゃりょう)協会」(大阪府)は、車いすを車に適切に固定し、シートベルトは利用者の肩と手すり下を通して腰骨にかけ、車輪のスポークを通して装着するように呼びかける。
「明日は我が身です」
ただ車いすは本来、車載目的で作られておらず、手すりの下にシートベルトを通せない仕様のものもある。肩のベルトの着用が難しい人がいるほか、固定装置やシートベルトの基準がなく、車メーカーにより方法や位置も異なる。介護老人保健施設「佐倉ホワイエ」(千葉県佐倉市)の担当者は、「120人いれば120通りの固定方法がある」と話す。

佐倉ホワイエでは、1日平均で施設利用者約30人を送迎し、その5分の1が車いす利用者という。職員はシートベルトの着用方法などを日本福祉車輌協会の講習会で学び、限られた時間の中で安全に送迎するため、交通量の多い道路を避けるなどの対策をしている。これまで死亡事故は起きていないが、職員は事故について「明日は我が身です」と言う。
事故防止に向け、日本福祉車輌協会は車やバス、車椅子のメーカーと共同事業体(コンソーシアム)を設立し、簡易固定装置の規格化に向けて協議。また、一般社団法人「日本福祉用具・生活支援用具協会」(東京都)は経済産業省から委託を受け、車載用車いすなどの規格作りに取り組む。国際規格に準じ、48キロ走行で前方の障害物に衝突した衝撃(20G)で、▽車いす利用者を傷つけない▽車いすが車の固定装置から外れない▽利用者の頭やひざがほぼ動かない――などの内容で検討中だ。

「安全性と利便性はトレードオフ」
コンソーシアムに参加する車いすメーカー「松永製作所」(岐阜県養老町)は約25年前、20G対応の車いすを車メーカーと共同開発した。松永紀之社長は「車載目的の車いすの安全性と利用者の利便性はトレードオフ(一方を立てれば他方が立たなくなる)。両立は非常に難しい」と話す。同社と一杉教授らは、20G対応の車いすにシートベルトを装備した試作品を作り、両立を模索する。

元横浜市総合リハビリテーションセンター長の田中理・一般社団法人「クオルトン研究所」代表は「車いす利用者の体形や障害は多様で、普段の生活で使えなければ普及しない。車載用の普及に向けて国が補助金など実効性のある施策をするべきではないか」と指摘する。
消費者庁は、車いすや、車いすを乗せる車の構造を調べ、法制度や関連団体の取り組みなどを踏まえたうえで安全対策を提言する方針だ。
